-I'm still here-

一次創作のファンタジー物語と日常を気分で書き連ねる、サイト兼ブログ

籠の鳥からの脱出 2 

 

意外と前から始めてしまった……


 変わらない日々を気ままに過ごしていたある日のことだ。

「……」

「…、……」

「ん?」

 ルーストがいたのは色欲の城を守るようにして背高く建っている壁の近くの庭スペースだった。壁の向こう側から何かが聞こえてくる。気になって、ふと思い出した。

 確か色欲の魔族は壁の外へは行けないはず……。

 しかし、ずっと聞こえている会話のようなものが聞こえてくるのが気になる。ルーストは辺りを見渡して、2組が盛り上がってこちらには気付く気配もないのを確かめるとそっと翼を広げて壁のてっぺんに向かって地を蹴った。

「そりゃあ挑戦する気にもならねえよな……」

 突然声がはっきり聞こえてきた。ルーストは驚いてバランスを崩しかけて、慌てて壁のふちにつかまった。

「魔王も変わったことだし、下剋上なんて今どき流行らないと思うね」

 落ちなかったことに一息ついて、改めてはばたき壁にしっかりとつかまって身体を引き上げる。

「今だから言えるけど侵略なんてのもこっちに悪いことばっかりで何がしたかったのかイマイチだったしなー」

「そういえばお前割と前からいるんだっけか。どんなもんなんだ?」

 下を見ると、翼をもった魔族が3匹、飛びながらで座談会のようなものを開いている。

「初代は知らないけど、聞くと初代と今の魔王は似てるらしいぜ。ま、所属してる奴の考え方にもよるだろうけど、2代目は七つの大罪の意見もさっぱり聞かなかったらしいな」

「はー。あ、そういやここ色欲か」

 1匹の魔族が壁を振り仰いだ。ルーストは慌てて飛び退いて姿を隠す。羽ばたきながら会話に聞き耳を立てる。

「色欲は2代目の時に決裂したらしいぜ。同じ魔族界にいるのにこの護りを造っちまうくらいだから相当だったんだろ」

「今の魔王様ならまた戻れるんじゃないか?」

 そっと壁につかまって再び聞き入る。

「だいぶゆるくはなってきたらしいがな。未だに色欲に所属する魔族は片っ端から拉致してこの中で生活させてるらしいぜ」

「ら、拉致……」

 ルーストは自分が誕生した時のことを思いだして動揺した。でも、ここでの生活は苦ではないし、好きにさせてもらってるからなにも不自由も不満もない。自分の司っているものだって自由に発揮させられるし……。

「まるで幽閉だな。だから魔族界で色欲系の魔族に会わないのか」

「噂によるとこの壁と一緒に、色欲の王が結界みたいなのを作ってて、中で色欲魔族が好き勝手するエネルギーは全部自分たちのエネルギーになるようにしてるんだとか」

「そんなことしてんのか」

「そんな……!」

 思わず小さく叫んでしまった。3匹の魔族が驚いてこちらを振り仰ぐ。

「わ…! やべ、まさかいるとは…!」

「ま、待って! それって…本当なのか…!?」

 衝撃と動揺と困惑に喉をつまらせながら声をあげる。逃げようとしていた3匹は顔を見合わせて、向き直るとルーストがいるところまで飛んできた。

「あくまで噂だけど結構信憑性高いって言われてるぜ」

「おい、言っていいのかよ…アスモデウスに消されるぞ…!」

「この話は内密に頼むよ。って言ってもリーダー万歳な城じゃ無理か…」

「だ、誰にも言わないからもう少しその噂について教えてくれないか?」

 3匹はまたしても顔を見合わせた。一番噂に詳しくずっとしゃべっていた魔族がたずねる。

「お前、色欲の魔族だよな?」

「そうだよ。でも他と比べたら…」

 はっと思いだして庭スペースを振り返る。2組みはまだこちらに注意できるような状態じゃなさそうだ。一安心して向き直る。

「まだ"新入り"って言われてる」

「なるほどな。てっきり人型なのが関係してるのかと思ったぜ」

「?」

「いや別に。新入りだから洗脳は浅いってことだな」

「洗脳だなんて」

 ルーストが批難の意味を込めて身を引くと、脇の魔族たちが口々に言った。

「そこにいるのが一番安全だとか言われてないか?」

「ここなら自由とか」

 ……それは覚えがある。

「その顔は図星だな。いいか、まだ洗脳が浅いなら早いところそこから抜け出すってのも手だと思うぜ」

「ど、どういうことだよ」

 考えたこともなかった言葉に驚く。魔族は眉をしかめた。

「だってそうだろ。噂がほぼ真実だって言われてるんだぜ? お前が司ってるものが何か知らないけど、本来ならそれは自分の糧になってるはずなんだ。聞いてたなら分かるだろ、お前がいくら自分の糧になることをやったって、アスモデウスとルクスリアの糧になってんだぞ」

「奴隷と変わらねえよ……。自分の力を得るためにやってることがひとつも自分の中に入ってこないなんて、考えただけでも生きていけねえ」

「お前翼あるんだからこっち来いよ。結界に行き来を阻む効果なんてないはずだぜ」

 手の差し伸べられて、それをじっと見つめてルーストは混乱していた。整理のつかないことが多すぎる……。

「……す、少しだけ整理する時間をくれ……」

 緊張で声が震えている。

「お前…」

「あ、あまりに思ってたことが覆され過ぎて頭が追いつかないんだ…! でも、もう一度来てくれないか…その時には……」

 壁を掴む手に力が入る。その様子に噂に強い魔族がなにか察したようだ。

「分かった」

 信用しきれない他2匹を連れて、魔族たちが去って行く。それをしばらく呆然と見送りながら、ルーストは頭の中のごちゃごちゃに途方に暮れていた。

「いいのかよ、もしかしたら密告されて消されるかもしれないぞ」

「名前も言ってないだろ」

「そうだけど……」

「それに、」

 魔族は肩越しに緑色の影を見やってふっと笑った。

「人型で嘘が得意な奴にはあまり会ったことがないからな」

 なーんか思い出しちまうねえ、と言う魔族に脇2匹の魔族は顔を見合わせて肩をすくめるのだった。


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category: 幻想世界絵文

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