-I'm still here-

一次創作のファンタジー物語と日常を気分で書き連ねる、サイト兼ブログ

天狗様の秘密の相手 

 

北西の森にいた頃のちょっとしたエピソード。
コラボでお世話になっているウィスタリアさんが知っているかどうかは、テングが自分から話したかどうかによるだろうからきっと知らない話だと思います。
(ちょい色気の濃い部分が出てきます)


 北西の街に守り神が帰ってきた。

 まさか本当に存在しているとは思わず、こちらの不手際で一瞬傷付てしまったがそれもそんなに気にする様子でもないところに街の人は救われたと胸をなでおろした。そして、寛大な心をもつこの守り神にお詫びも含めて盛大にもてなしをした。

 この街の守り神というのは天狗様だ。黒い烏の翼をもった、人ならざる妖怪。

 当たり前なのか恥ずかしいことなのか、これ以上の深い天狗様についての情報はないのが実態だった。

 しかし、現れた天狗様はその迷信以上に確信をもてる様子だった。

 肌は人間のそれとはまったく違って青白い。少し背は高めで、緑色の髪はこの街には誰もいない色。そして、私は見てしまったんだ。

 天狗様をもてなしたい人にたかられているときに一瞬見えた、琥珀色の左目。私はその瞳を捉えた瞬間吸い込まれるような何かを感じた。

「天狗様ぁ、折角やし私らの店にも寄ってくださいまし」

 隣から声がした。我に返って振り返ると、うちの店のママだった。結果的に天狗様はうちの店に来ることになったが、それを進めてくれたのは周りでたかっていた街の男どもだった。

「ママの店はいいぞ、温泉も最高だし宿も贅沢に過ごせますぜ!」

「天狗様が強いかどうか分かりませんが酒もうまいですよ!」

「なにより姉ちゃんたちがいい娘ばっかりでさあ」

 女性陣からは牽制が多かったのは言うまでもない。

「男ったらこれだから嫌だわ。天狗様、下衆な男どもについてっちゃだめです」

「守り神を色街に連れて行くなんて罰当たりよ!」

 和を取り持ったのはママだった。

「心配しなさんな。私だって分別くらいあるさ。守り神様にはちゃんと礼儀正しいおもてなしをするよ。一緒にもてなしを手伝ってくれるなら男も女も今日は歓迎するけど?」

 これで話は決まった。端正な顔立ちをした天狗様をもてなしをしたいと色気づく女も、一緒に酒を飲みたいという男も、にぎやかに店に集まった。

 さながら大きな宴のようなもてなしを開き、初めてうちの店は夜通し扉を開け放したままだった。

 どうやら天狗様は酒に酔わないらしく、街の酒豪は軒並み潰れて嫁に引きずられて帰った。何人かは部屋に泊めてやった。宴会席を片付けながら、私は天狗様の座っていた場所を食い入るように見つめた。

「シノ。どうかしたかい?」

 後ろから呼ばれてはっとした。慌てて振り返っていると、ママが来ていた。

「それにしても天狗様がワクだったとはねえ。大して大酒のみという感じでもなかったけど、顔色一つ変えずに男どもの相手してやってる様はさすがだったわ」

 つまみ出してやりたい失言を飛ばしてる奴が腐るほどいて気が休まらなかったのはこっちだと愚痴をこぼしながら、酒の瓶を取り上げる。

「おもてなしだから仕方ないけどこれじゃあ商売あがったりだね。後で街全員に天狗様のおもてなし代の徴収でもしてやろうかしら」

「ママ……」

 私はうずうずしていたがついに口をはさんだ。ママが振り返るのを待って、私はお盆を胸に抱きながら言った。

「私、あのお方の傍にいたいです」

 ママは一瞬きょとんとして、あぁと合点いったように顔を和ませた。

「天狗様かい? 確かに色男だったからね。でもさっき女どもに温泉に連れていかれてたよ?」

「えっ」

 お盆を取り落としそうな勢いでショックを受けていると、ママは笑い飛ばしてきた。

「あんたも好きだねえ! ここはいいから行っておいで。女の争いを勝ち抜いてこそうちの店の娘だ」

 ママにお盆を渡し、私は急いで温泉へ向かった。脱衣所で女たちが盛り上がっている。遅かったか。影で何枚かタオルを引っ張り出し、仕事で来た体を装う。

「お湯はいかがでしたか?」

 さりげなく声をかけると、ひとりが応えてくれた。

「お湯はよかったわよ~。男湯の話が気になってしょうがなかったけどね」

 耳を疑ったが、女たちはそれでも楽しそうに天狗様のことを話しながら着替え、出て行った。私は思わずそのまま男湯の方へ足を向けた。

「失礼いたしますー…」

 天狗様以外にも男どもがいるのは分かっていたが、何故か入らずにはいられなかった。案の定、入って一番近かった男が驚いて振り返った。

「おやっ、悪いねまだいるよ!」

「お気遣いありがとうございます、私は構いやしないのですが……」

「兄ちゃん、この店はそういう店さ。お嬢さんさえよけりゃあ入っておいで!」

 慣れていなさそうな男に一礼して、私はタオルを持ったまま男湯の脱衣所へ入っていった。素っ裸の男は何人かいたが、気にもならない。私が気になっているのは天狗様だ。

「ん、え?」私の姿を認めた天狗様が不思議そうな顔をする。

「さっきは男と女別の場所だって言ってたけど…?」

「この店にいる娘さん方は別さぁ」

「というか天狗様にゃあ先に色街がなんなのかを説明して差し上げなきゃいかんだろう」

「いいのいいの、すぐに分かるって」

 話を聞いている表情からしてそんなにすぐ分かりそうな顔はしていないけど……。とにかく私はもう一度確かめたくて、そのためにいいように言葉を選んだ。

「ママから部屋に案内しろと言われてお迎えに参りました、シノと申します。ご準備手伝いましょうか?」

 とはいえ、天狗様はすでにほとんどの着替えを終えていた。少しがっかりしながら、しかし乾ききっていない髪に隠された左目のことを思い出してぞくりと背筋を伸ばした。

「ううん平気、すぐに終わるから…。でも部屋って? あんまり長居しても悪いから帰ろうと思ってるんだけど……」

 やんわりと断られるが、後押ししたのは周りの男どもだった。

「天狗様、そりゃあないぜ!」

「1日くらい泊まっていったって悪いことないって!」

「せっかくこんなかわいい娘が来てくれてるのに!」

「で、でも……」

 何か言いたげな様子だったが、言葉が見つからなかったのか結局折れて私と一緒に部屋に来てくれた。

 部屋に入って準備が整っていなくてすみませんと手際よく布団を敷き、流れる動きで布団に座って手で示しながら髪を乾かすと言うと遠慮された。しかしもてなさせてくれと今まで散々他の人も言っていた言葉にあやかって食い下がり、座ってもらった。

 少し乾かした後天狗様の正面に回って、顔を覗き込んだ。

「わっ?」

「天狗様、私見たんです」

 素早く手を伸ばして、湿った前髪をかきあげる。天狗様は慌てたように左目を閉じた。

「何故ですか?」

「な、何故って」

 どう言えばいいのか迷っている様子でこちらを止めている天狗様に、私は妙に我慢ができなくなりそうだった。こんな高ぶり、今までにあったことがない。

 私と少しの間視線を絡ませていた天狗様は、降参したようにため息をついた。私を落ち着かせるために座らせてから、左目を開けた。

「いつ見たのか分からないけど、この目の効果は人間にはいいものじゃないんだ」

 左目を見た瞬間に再びこみ上げてきた吸い込まれる感覚。天狗様が何を言ったのか分からないほど頭が働かない。

「天狗様、私…わたし……」

 何かに突き動かされるように部屋のあかりを消し、状況のつかめていない天狗様の前に座り首に手をまわして、溺れるように唇をうばっていた。最初こそかたまっていたが、すぐに諦めたような、それでいて怖さも含んでいるような手つきでそっと髪に触れ、髪をすきながら骨に沿って頬をなでて返してくれた。全身に熱がまわるように嬉しい。

 そのまま優しく倒されて天狗様を見上げると、その顔は怖いものに立ち向かうようなかたい表情だった。琥珀の左目が暗い部屋のなかではっきりと分かるように輝いていて。

「ごめんね……」

 その言葉の意味が分からないまま、私は溺れた。





「ダメだと思うなあ」

「なんで? 天狗様が怖いのを克服するためなら私なんだってするわ」

「そうじゃなくて……。あのね。前に話したでしょ、これの効果でひとり人間が死んでるんだってば……」

 赤い天狗面に隠された左目を示しながら、天狗様は苦い顔をして言う。

「でも私はまだ死んでないわ。死んだ人に失礼だけど、きっと天狗様に無礼なことをしたから罰が当たったのよ」

「シノ」

 まるで責められたようなつらい声色で遮られた。驚いて振り向くと、天狗様はうつむいていた。

「天狗様……」

 思い出した。人間の行いに対してとても寛大な天狗様の性格。きっと、無礼をはたらいたとか、そういう理由ではないのかもしれない。でもそうだとしたら……私が考えられることはひとつしかない。

「…もし、事故だったならしょうがないと思うの。私には何があったか分からないけど、天狗様がそれでつらい思いをしているのはとても優しいことだと思うし、そんなにつらく思ってくれているなら死んでしまったその方ももう怒っていないと思うわ」

「……」

 詰めた息を細く吐いて、そうだといいんだけど…と力なく小さく呟く。私はそんな天狗様を見ていると、改めてとても寛大な心をもっていて素敵だと愛しさがこみあげた。守り神に手を出すなど禁忌中の禁忌だと何人かから咎められたが、もう気にしてない。

 私は元気を出してもらいたくて、天狗様の胸に飛び込むように押し倒した。さっと手を伸ばしお面を外して、前髪に手を伸ばしたところで手首をつかまれる。

「大丈夫、天狗様がその綺麗な瞳でつらい事故を起こさないように、私が特訓の相手になってあげる」

「結局最初と言ってること変わってなくない?」

 手首をつかむ手の力がゆるみ、表情が呆れたものになる。私はくすっと笑い、すぐに真剣な顔で言った。

「私は天狗様のその左目、怖くないです。琥珀色で素敵だと思います。その瞳に呑まれるなら本望です」

「…またそんなこと言って……」

 はあとため息をついて、おもむろに体勢を入れ替えた。

「シノが望むようにしてあげるけど、本当にいつも賭けなんだからね?」

「なら私はすごい強運の持ち主だと思わない?」

「まったくさあ。もう知らないからね」

 いいよという意味で、私は天狗様の首に手を回す。

 北西の街の夜。私は優しさに包まれながら頭を溶かしていく。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
北西の森でウィスタリアさんに保護された初期に何度か色暴走を起こしていたけど、厄介になって落ち着いてきた頃から色暴走も落ち着いた本当の原因だと思いますww

テングの色欲ゲージは、周りの欲情によって溜まっていくのが本来ですが、日にち経過でも地味に溜まっていくものだったりします。
まあテングが過度に己の能力を抑え込んでいる反動というか副作用というか、そんなニュアンスです。。

たまたま見てしまった時に食らった左目の能力にハマってしまった女の子のお話、という感じになりましたが、テング氏の責任重いなあこれは……(他人事

でもこの子のおかげで北西の森にいる間のテング氏の色暴走の発生率はゼロに等しい状態でいられたので、なんとも言えませんがきっとウィスタリアさんが聞いたら死ぬほど嫌われそう。

ともあれお目汚し失礼しましたー!
表現レベル、R18までいくほどではないと信じてる!←

category: 幻想世界絵文

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